蕪村の風景



古庭に茶筌花さく椿かな
古庭に茶筌花さく椿かな

茶筌の形をした椿といえば、茶花としても有名な「侘び助」
だろうか。ぼってりとした八重の椿では無さそうだし、この方が
古い庭にはふさわしい。春の句なのに枯淡の趣が感じられて
うれしい。





妹が垣根さみせん草の花咲きぬ
妹が垣根さみせん草の花咲きぬ

垣根の向こうの女性はどんな人だろう。せみせん草は
この頃にはぺんぺん草と云ってたのだろうか。何か対比
が不思議な句である、と思って調べると中国の故事が
絡んでいた。垣根のむこうの娘に対し琴をひいて心中
を訴えたとか。さみせん草より、音からくるペンペン草の
ほうが良かったかもしれぬ。




畑うつやうごかぬ雲もなくなりぬ
畑うつやうごかぬ雲もなくなりぬ

「ひねもすのたりのたり」の海に対して、こちらは陸の春、
畑を打つ鍬の音がリズム正しく聞こえる。駘蕩たる空気
が満ちて、空には白雲が少しずつ春風に動く。
静かで大きい風景の中に一点の農夫の姿、雲は描かれ
て無かったかもしれない。





遅き日のつもりて遠きむかしかな
遅き日のつもりて遠きむかしかな

なんとも気だるく、やるせない夕暮れだろう。おそらく誰も
が経験した春の夕暮れ。思いは、これも過ぎて行った春
の記憶、春の夕暮れの記憶とは何故この様にはっきりと
思い出されるのか。春宵一刻のつらい時間。。





苗代の色紙に遊ぶかはづかな
苗代の色紙に遊ぶかはづかな

苗代の溌剌とした生命の色、小さな蛙の生命のきびきび
とした動き。蛙だけが遊んでいるのでもなく、苗も、まだ少し
冷たい水も、そこに映る雲も、苗代田に流れる風もみんなが
嬉々として遊んでいる。
苗代田を色紙に見立てたところは、やはり画家の眼だった。





帰る雁田ごとの月の曇る夜に
帰る雁田ごとの月の曇る夜に

帰る雁も、渡る雁も、雁の行く姿は何故か淋しい。
春の月のおぼろな明るさの中を、羽音も鳴き声もなく静か
に北を目指す。本能に従う動物の姿であっても別れは
つらい。「一去一来」この言葉が全くふさわしい季節だ。




戻る メニューへ