ヘッセ詩集

その1

村の夕べ / はかない青春 / 野を越えて / 私は愛する・・・ / ラヴェンナ / 流浪者の宿
/ けれども / 彼はやみの中を歩いた


<村の夕べ>
羊をつれた羊飼いが、
静かな小路を通ってはいって行く、
家々は眠たげで、
もうたそがれ、居ねむりしている。

私はこの村の中で、
いまただひとりの異国人だ。
悲しみ痛む私の胸は
あこがれの杯を底まで飲みほす。
(後略)



<はかない青春>
疲れた夏が頭を垂れて、
湖に映った自分の色あせた姿を見る。
私は疲れ、ほこりにまみれて歩く、
並木路の影の中を。

ポプラの間をおどおどした風が吹く。
私の後ろの空は赤い。
私の前には、夕べの不安と、
ーたそがれとー 死とが。

私は疲れ、ほこりにまみれて歩く。
私の後ろには、青春がためらいがちに立ちどまり、
美しい頭をかしげ、
これから先はもう私と一緒に行こうとしない。



<野を越えて>
空を越えて、雲は行き、
野を越えて、風はよぎる。
野を越えてさすらうのは、
私の母の迷える子。

ちまたを越えて木の葉は飛び、
木立の上に鳥は鳴く・・・
山のあなたのどこかに
私の遠いふるさとはあるに違いない。



<私は愛する・・・>
私は、千年の昔、詩人たちに愛され
歌われた女性たちを愛する。

私は、うつろな城壁がそのかみの
王族の名残をいたむ町々を愛する。

私は、今日の人たちがもうだれも地上に
いなくなった時よみがえる町々を愛する。

私は愛する・・・しなやかな、こよない、
生まれずに年どしのふところに憩う女性たちを。

彼女たちはいつか星のように あお白い美しさで
私の夢の美しさに似るだろう。



<ラヴェンナ>
私もラヴェンナに行ったことがある。
ささやかな死んだ町で、
書物にもよく 記されている
かずかずの教会とたくさんの廃墟がある。

町うぃ通りぬけて、振り返って見ると、
街路はいたく陰気で湿っている。
千年のよわいを重ねて、ひっそりと語らず、
至るところ苔むし、草がはえている。

さながら古い歌のようだ・・・
(後略)



<流浪者の宿>
夜ごと夜ごと絶えず
カエデの影に冷たく見まもられながら、
かすかな泉水が流れつづけるのは、
なんと見慣れぬ不思議なものだろう、

そして月の光が破風の上に
絶えず、においのように漂い、
雲の軽い群れが冷たい暗い空中を飛ぶのは、
なんと見慣れぬ不思議なものだろう。

そういうものは皆いつも変わらないが、
私たちは一夜やすめば
先へ先へと国中を歩いて行く。
私たちをしのんでくれるものはひとりもいない。
(後略)



<けれども>
けれども私は青春の刻々を
残りなく味わった。私は嘆くべきだろうか、
私のいたわられた胸が、傷と
にがさと悲しみとのみを抱いたことを?

青春がもう一度もどって来て、
ありし日のうるわしいおもかげをそなえていたら・・・
あの青春が違った終わり方をしたら、
私は満足するだろうか。



<彼はやみの中を歩いた>
彼は、黒い木立ちのかさなる影が
彼の夢を冷やす闇の中を好んで歩いた。

だが、彼の胸の中には、光へ、光へと
こがれる願いが捕らえられて悩んでいた。

彼の頭上に、清い銀の星のこぼれる
晴れた空のあることを、彼は忘れていた。




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