![]() |
<フィエーゾレ> 私の頭上の青空を旅する雲が 私に、ふるさとへ帰れ、と言っている。 ふるさとへ、名も知れぬ遠いかなたへ、 平和と星の国へ帰れと。 ふるさとよ!おまえの青い美しい岸を 私はついに見ることはないだろうか。 でもやはり私には、この南国の近く足のとどく所に おまえの岸べがあるに違いないと思われる。 |
| <夢> いつも同じ夢。 赤い花咲くカスターニエンの木、 夏の花の咲きこぼれる庭、 その前に寂しく立っている古い家。 あの静かな庭のあるところで、 母がゆすってくれた。 多分・・・もう久しい前から・・・ 庭も家もなくなっているだろう。 多分いまは草原に道が通じ、 その上を鍬や馬鍬が通り過ぎる。 ふるさとや庭や家や木については 私の夢のほか何も残っていない。 |
![]() |
![]() |
<ローザ嬢> ひたいに光あふれるあなたを、 いとも妙な茶色の目と、 絹の髪をしたあなたを 私は知っている!だが、あなたは私を知らない。 曇りない顔をしたあなたを、 異国の甘い歌の調べを 低く奏でるやさしいあなたを、 私は愛する!だが、あなたは私を知らない。 |
| <私は欺いた> 私は欺いた! 私は欺いた! 私は老いてはいない。生活にあきてもいない。 美しい女性といえば、きっと 私の脈拍と心をふるわすのだ。 私はまだ、情熱的な裸の女たちを、 よい女たちや悪い女たちを、 激しいワルツの華麗な拍子を、 恋した夜を、夢に見る。 (後略) |
![]() |
![]() |
<白い雲> おお見よ、白い雲はまた 忘れられた美しい歌の かすかなメロディーのように 青い空をかなたへ漂って行く! 長い旅路にあって さすらいの悲しみと喜びを 味わいつくしたものでなければ、 あの雲の心はわからない。 私は、太陽や海や風のように 白いもの、定めないものが好きだ。 それは、ふるさとを離れたさすらい人の 姉妹であり、天使であるのだから。 |
| <霧の中> 不思議だ、霧の中を歩くのは! どの茂みも石も孤独だ。 どの木にも他の木は見えない。 みんなひとりぼっちだ。 私の生活がまだ明るかったころ、 私にとって世界は友達に溢れていた。 いま霧がおりると、 だれももう見えない。 ほんとうに、自分をすべてのものから 逆らいようもなく、そっとへだてる 暗さを知らないものは、 賢くないのだ。 不思議だ、霧の中をあるくのは! 人生とは孤独であることだ。 だれも他の人を知らない。 みんなひとりぼっちだ。 |
![]() |
![]() |
<幸福> 幸福を追いかけている間は、 おまえは幸福であり得るだけに成熟していない、 たとえ最愛のものがすべて おまえのものになったとしても。 失ったものを惜しんで嘆き、 色々の目あてを持ち、あくせくとしている間は、 おまえはまだ平和が何であるかを知らない。 すべての願いを諦め、 目あても欲望ももはや知らず、 幸福、幸福と言い立てなくなった時、 その時はじめて、でき事の流れがもはや おまえの心に迫らなくなり、おまえの魂は落ちつく。 |
| <慰め> 数多くの生きて来た年々が 過ぎ去り、何の意味も持たなかった。 何ひとつ、私の手もとに残っているものはなく、 何ひとつ、私の楽しめるものはない。 限り知れぬ姿を 時の流れは私のところへ運んで来た。 私はどれ一つとどめることができなかった。 どれひとつとして私にやさしくしてくれなかった。 よしやそれらの姿は私からすべり去ろうと、 私の心は深く神秘的に あらゆる時をはるかに越して、 生の情熱を感じる。 この情熱は、意味も目あても持たず、 遠近の一切を知り、 戯れている時の子どものように 瞬間を永遠にする。 |
![]() |
![]() |
<独り> 地上には 大小の道がたくさん通じている。 しかし、みな 目ざすところは同じだ。 馬で行くことも、車で行くことも、 ふたりで行くことも、三人で行くこともできる。 だが最後の一歩は 自分ひとりで歩かねばならない。 だから、どんなつらいことでも、 ひとりでするということにまさる 知恵もなければ、 能力もない。 |
| ▲ |