ヘッセ詩集

その3

九月の哀歌 / エリザベート / 愛の歌 / さすらいの途上 / 運命 / 眠れぬ夜 / 夜、沖合いで


<九月の哀歌>
おごそかに、陰気な木立の中で、
雨は歌をかなでている。
森におおわれた山々ではもう
身ぶるい させる茶色がきざしている。
友よ、秋は近い。秋は、もう
森のふちで待ち伏せながら、
ながし目を送っている。
野もうつろに見つめている、
訪れるものは鳥だけだ。
(後略)



<エリザベート>
わたしは、もう満ち足りた気持ちには、なれない。
私は、来る日も来る日も、
あなたの姿をあこがれの中に抱くばかりだ。
私はほんとにあなたのものだ。

あなたの まなざしは私の心の中に
予感にあふれる光をともした。
その光は絶え間なく告げる、
私はあなた自身のものだ。

だが、清らなあなたは
私の情熱に気づかず、
私にかまわず、楽しげに花咲き、
高々と星のようにさすらう。



<愛の歌>
私はあなたの絹の靴を歌う、
あなたの着物のきぬずれを歌う、
私は夜ごとあなたを夢に見る、おお、
私の悪い人、私の心の悩みよ!

私はあなたの名まえしか知らない。
私はもう、どんな苦しみのためにも
楽しみのためにも泣くことができない。
あなたのために泣くだけだ、私の心よ。

私はもうどんな幸福も
難儀も知ろうと思わない、
あなたのためにあこがれ燃えるよりほかには、
おお、あなたはなぜ死んだのです?



<さすらいの途上>
悲しむな、やがて夜になる。
そしたら、あお白い野山の上に
冷たい月がひそかに笑うの見、
手を取り合って休もう。

悲しむな、やがて時が来る。
そしたら、休もう。私たちの小さい十字架が
白っぽい道のべに二つ並んで立つだろう。
そして雨が降り、雪が降り、
風が去来するだろう。



<運命>
私たちは、子どもたちのするように、
怒って、わきまえもなく別れ、
愚かなはにかみにとらえられて
互いに避け合った。

悔いて待つうちに
幾年も過ぎた
私たちの青春の園に
通ずる道はもうない。



<眠れぬ夜>

意識の最後の境に、精神が
疲れながら意地悪く目ざめて見張っている。
瞬間のうちに無数の生を
幻のように生き、熱に疲れながら
いつまでも休もうとしない。
夢みる血管の働きの中から、暗く
生への。死へのあこがれが燃え上がる。
精神はにがい微笑をもって、老人のように、
そのあこがれを嘲る。
(中略)

見よ、色はなやかに、
疲れた魂の奥から、なつかしく
昼間のさまざまの形が上がってくる。
記憶は、光と実在の形に満ちて
幸福げに耽溺する。
(中略)

おお記憶よ、唯一の女神よ!
慰めるものよ、ようこそ!
静かに、耳すましつつ、魅せられたもののように、
私はかって生きた時のの長い列が
砕かれもせず永遠の日の中を通るのを見る。
その一つ一つが完全に、時間を超越して。
その間に夜はひそかに窓ににおい、
甘い眠りは、ひそかに待ちながら、
近づく陸地から、私にもう
救いの網を投げる。



アジアの旅から
<夜、沖合いで>
夜、海が私をゆすり、
色あせた星の輝きが、
広い波の上にうつる時、
私は自分をすっかり、
一切の行いと愛とから引き離し、
じっとたたずんで、ただひとり
ひとりぼっち海にゆられて僅かに呼吸する。
海は静かに冷たく無数の光を浮かべて横たわっている。

すると、私は友だちたちをしのび、
まなざしを友のまなざしの中に沈めずにはいられない。
そしてひとりひとりにそっとたずねる。
「君はまだぼくのものか。
ぼくの悩みは君にとっても悩みか、
ぼくの死は君にとっても死か。
君はぼくの愛と苦しみについて、
一つの息吹き、一つのこだまでも感じるか」

すると海はゆうゆうと見ながら、語らず、
否、とほほえむ。
どこからもあいさつも答えもやってこない。




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