ヘッセ詩集

その5

青春の園 / 転機 / たそがれの白バラ / うめく風のように / 寝ようとして /
/ つれない人々 / 寂しい晩


<青春の園>
私の青春は花ぞのの国であった。
銀の泉が草の野に湧き出し、
老木のおとぎ話めいた青い影が、
私の大胆な夢の火を冷ました。

渇えながら私は熱い道を歩く。
私の青春の国は閉ざされている。
バラが塀のふちを越して嘲るように
私のさすらいに向かってうなずく
(後略)



<転機>
今はもう世界は私のために花咲かない。
風も鳥の鳴き声も私には呼びかけない。
私の道は狭くなった。私は行き過ぎる。
ひとりの友も私の道ずれにならない。

私の青春のふるさとだった
楽しい谷間を見ることさえ、
今はもう私にとっては危険であり
きびしい悩みだ。

ふるさと恋しの切なさを癒そうと、
もう一度下がって行くと、
そこには、どこに行っても変わりないように、
私の道のほとりに死が立っているだろう。



<たそがれの白バラ>
悲しげにおまえは顔を
葉の上にもたせかける、死に身をまかせて。
おまえは幽霊のような光を呼吸し、
あおざめた夢をただよわせる。

だが、おまえのなつかしい香りは
まだ一晩じゆう部屋の中に
最後のかすかな光の中で、
歌のようにしみじみとただよう。

おまえの小さい魂は
憂わしげに、名のないものに手を指しのべる。
そしておまえの魂はほほえみながら死ぬ、
私の胸で、姉妹なるバラよ。



<うめく風のように>
うめく風がやみの中を吹くように、
私の願いはあなたの方に
狂おしく飛んで行く。
目ざめたあこがれで一杯だ
おお、私を病みつかせたあなたは、
私について何を知っているだろう!

そっと私は深夜のあかりを消して、
熱にうかされて幾時間も寝ずにいる。
夜はあなたの顔をしており、
恋を語る風は
あなたの忘れ得ぬ笑い声をしている。



<寝ようとして>
一日のいとなみに疲れて、
私の切なる願いは
疲れた子供のように、
星月夜をしみじみと抱きしめる。

手よ、すべての仕事をやめよ、
ひたいよ、すべての考えを忘れよ、
私の五官はみな
まどろみの中に沈もうとする。

魂はのんびりと
自由な翼で浮かび、
夜の魔法の世界に
深く千変万化に生きようとする。



<炎>

おまえがつまらぬものの間を踊っていこうと、
おまえの心が憂いに苦しみ傷つこうと、
おまえは日ごとに新しく味わうだろう、
生の炎がおまえの中に燃えている奇跡を。
(中略)
だが、陰気な薄明を通ずる道を行くもの、
日々の煩いにたんのうし
生の炎をついぞ感じないものだけは、
その日々を空しく失うのだ。




<つれない人々>
なぜに君たちの目はそんなにつれないのか。
なんでもみな石にしてしまおうとする。
いささかな夢もその中にはない。
すべてが冷たい現在だ。
君たちの心の中には一体
太陽は輝いていないのか。
君たちはついぞ子どもでなかったことを
悲しんで泣かなくてもよいのか。



<寂しい晩>

からっぽなビンとコップの中で
ロウソクのかすかな光がゆらぐ。
部屋の中は冷たい。
外では雨が柔らかく草の中に落ちる。

おまえはまたひと休みと、
凍えながら悲しく横になる。
朝は来、晩はまた来る。
絶えずやって来る。
だが、おまえは決してやって来ない。





その4へ メニューへ