いのち・なさけ

その1

朝顔


 朝顔の生粋の紺母の紺
村中燈子
 朝顔や風にさらはれさうな母
鍵和田
 朝顔が日ごとに小さし父母訪はな
鍵和田

 朝顔の紺の彼方の月日かな
石田波郷
 朝顔という月光を巻きつけて
対馬康子

鶏頭


 脳の如くに襞よせて鶏頭花
安田鈴彦
 鶏頭の倒れて燃ゆるうらがなし
臼田亜浪
 
 鶏頭の炎え極まりし暗さあり
鷲谷七菜子
 鶏頭をたえずひかりの通り過ぐ
森 澄雄
 鶏頭のくろずみて立つしぐれかな
室生犀星
  地上は限りない戦いのために
    見えない血であふれています。
寺山修二




 炎えるかもしれぬ薊を束ねおり
永井江美子
 ここ過ぎて火の巷あり鬼薊
河原枇杷男
 
 鬼あざみ鬼のみ風に吹かれをり
摂津幸彦
 花薊蝶とまらんとして高く
高浜虚子
 鬼あざみ鬼でありたき日もありて
吉田多美

夕顔


 夕顔に闇いちまいのかかりをり
辻 美奈子
 夕顔の莟ばかりの昼は憂し
後藤比奈夫
 結界にゆふがほしぼむ力かな
寺井文子

 夕顔や方丈記にも地震のこと
阿波野青畝
 夕顔のひらく光陰徐かなり
石田波郷

芙蓉


 芙蓉枯る晩節汚すこともなく
西嶋あさ子
 呪う人は好きな人なり紅芙蓉
長谷川かな女

 紅芙蓉暮色裏山より落ち来
石原八束
 芙蓉咲く風の悠々死の悠々
河野多希女
 花びらにゆるき力の芙蓉かな
下田実花

曼珠沙華ー1


 曼珠沙華ガラス繊維の蘂を持ち
安田鈴彦
 今死なば炎の中ならむ曼珠沙華
荒井千佐代
 童女いまも曼珠沙華から逃げている
鎌倉佐弓

 曼珠沙華抱くほどとれど母恋し
中村汀女
 仔狐が忘れていった曼珠沙華
坂本宮尾

曼珠沙華ー2


 すでに旅始まってをり曼珠沙華
加藤瑠璃子
 髪黒きままの死願う曼珠沙華
朝倉和江
 越えられぬ川がいくつも曼珠沙華
椿 文江

 曼珠沙華折れて重なる光かな
高浦銘子
 天上へ赤消え去りし曼珠沙華
右城暮石

曼珠沙華ー3


 昔へも行けそうな橋彼岸花
西尾千佳子
 群るるとき苦しみのいろ曼珠沙華
小宮山遠
 わたくしが昏れてしまえば曼珠沙華
柿本多映

 曼珠沙華みな山に消え夜の雨
森 澄雄
 つきぬけて天上の紺曼珠沙華
山口誓子




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