いのち・なさけ

その3

白梅


 白梅の青きまで咲きみちにけり
小坂順子
 白梅の咲きつくしたる暗さかな
岩井久美恵
 寒梅のあたりにて日の終わりかな
岸田稚魚
 夕空の絶え入るばかり梅咲けり
金田咲子
 白梅や父に未完の日暮れあり
櫂 未知子
 白に酔いくれないに醒め梅の中
手塚美佐
 萼紅き白梅にふれ柩発つ
竹原典子




 見えているほかは真っ暗牡丹雪
永田耕一郎
 牡丹雪どこへも行けぬ母に降る
日下部宵三
 山の端にちがふ闇ある牡丹雪
平木智恵子
 父なくて母なくて雪山河かな
小島花枝
 ふと覚めし雪夜一生見えにけり
村越化石
 恍惚の直後の手足雪降れり
高沢晶子
 女三界に家なき雪のつもりけり
鈴木真砂女




 眼前を刻すぎゆけり牡丹雪
岡本 眸
 遺されて母が雪踏む雪あかり
飯田龍太
 人死にし山月明の雪けむり
高須 茂
 大雪に埋もる家より柩出す
関 久江
 雪こんこん子を取ろ子取ろ子が欲しや
後藤綾子
 狂えるは世かはた我か雪無限
目迫秩父
 生死の中の雪ふりしきる
種田山頭火
 家々は闇のかたまり牡丹雪
坪内稔典

冬木


 こまごまと星をやどせる冬木かな
下村槐太
 昏れて無し冬木の影も吾が影も
三橋鷹女
 一直路しんかんとあり冬木立
鷲谷七菜子
 汽車道の一すぢ長し冬木立
正岡子規
 冬木の枝しだいに細し終に無し
正木浩一
 冬欅星の重みの加はりぬ
中西友紀
 父見るは遠き冬木を見るごとし
渡辺千枝子




 ある日ふと己れが視えてよりの冬
野沢節子
 狐火や蕪村の恋もとはの闇
矢島渚男
 雪女郎まなこの底の蒼かりし
西村和子
 星よりも人の淋しき冬夜かな
徳永夏川女
 雪の夜かの世の音に耳澄ます
高林文夫
 汝と我そのどちらかは春のゆめ
津沢マサ子

枯野


 枯野ゆく女の髪も枯るるもの
檜 紀代
 一望に枯草の曳く光かな
吉武月二郎
 冬の日のいちばん底にいるつもり
糸屋和恵
 旅人を飛白にしたる吹雪かな
杉本雷造
 木枯は死の順番を告げて去る
福田甲子雄
 なきがらに逢ひにゆくなる冬木かな
岸本尚毅
 遠くにも枯野が一つ大枯野
倉田紘文

落椿


 遅れ咲きいまの落花に加わらず
山口誓子
 はなびらの肉やはらかに落椿
飯田蛇笏
 落椿とはとつぜんにはなやげる
稲畑汀子
 赤い椿白い椿と落ちにけり
河東碧梧桐
 落椿もうたましいが抜けている
佐伯昭市
 魂の入りたるままに落椿
森田智子

椿


 雪椿ほむらの如き夜明けかな
井上 雪
 全山に一つの椿探しをり
渡部伸一郎
 阿修羅ともなろか椿に戻ろうか
塚越美子
 齢にも艶といふもの寒椿
後藤比奈夫
 雪の木に抱かれていま夢うつつ
成沢たけし
 仮りの世のなぞなぞを解く寒椿
吉田汀史
 春雷のあとなまぐさき椿かな
塚本邦雄

水仙


 人の訃に水仙の香の走りけり
小野 伶
 黄水仙冷たき言葉繰り出しぬ
小林貴子
 水仙の花のうしろの蕾かな
星野立子
 水仙のしづかないろに湖の国
今井杏太郎
 日についでめぐれる月や水仙花
高浜虚子
 水仙に蒼き未明の来ていたり
島谷征良
 空に空の色よみがえり黄水仙
寺井 治




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