いのち・なさけ

その4

 陽の翳の彫りこまれをり春氷
須賀 薊
 薄氷の吹かれて端の重なれる
深見けん二
 三方の玻璃輝きて春隣
上野章子
 薄氷を弾けば水の匂いして
松崎剛之
 夢の端を踏むごとく踏み薄氷
鷹羽狩行

 一夜のみ生きて手つなぐ春の雁
殿村菟糸絲子
 たましひを抱くともあらず春の雁
間庭とよ子
 さびしさを日々のいのちぞ雁わたる
橋本多佳子
 月の前足そろへて雁わたる
真鍋呉夫
 しんがりに幼き雁の一羽あり
成瀬桜桃子
 春の雁死の順列を崩すなよ
宇多喜代子

 きぬぎぬのうれひがほある雛かな
加藤三七子
 雛納めひなの眠りを眠りたり
為本 茜
 絶海をいまも流るる母の雛
吉田汀史
 流れゆく雛と歩きて離さるる
上澤樹実人
 戸を立てて異なる世へと雛納む
吉本和子
 雛の間の闇うつくしき朝寝かな
原 コウ子

 菫かな白寿の母を生みたるは
上野まさい
 少年に菫の咲ける秘密の場所
鷹羽狩行
 わが影のさして色濃き花菫
右城暮石
 方言かなし菫に語り及ぶとき
寺山修司
 花すみれ吾に仏のあにいもと
木附沢麦青
 妻に現れわれには隠れ冬菫
相蘇としお
 日光のなかに月光すみれ草
大槻紀奴夫

 はくれんやまぼろしの子が支えをり
石原君代
 白木蓮咲きしを閨のあかりとす
井上 雪
 白木蓮にぶつかって日の渡るなり
岡本 眸
 木蓮に白磁の如き日あるのみ
竹下しづの女
 女くづるるごとくはくれんの散りゆけり
吉野義子

 死に近き人を思へば牡丹の芽
岩田由美
 一人減り又一人減り牡丹の芽
中岡毅雄
 ふくらみし夢に雪ふる牡丹の芽
菅井冨佐子
 満つる力は破るる力牡丹の芽
加藤秋邨
 折鶴のごとくたためる牡丹の芽
山口青邨
 日輪の凛々と澄み牡丹の芽
柴田白葉女

 おへんろのわれ花の下草の上
黒田杏子
 時間まだ夫婦にのこる花明り
ながさく清江
 花明りしてこの世かなあの世かな
篠崎圭介
 夢にも人に逢はぬ峠の夕桜
島田 柊
 花冷えの闇にあらはれ篝守
高野素十
 いったんは畦に下りたる花の山
岡本高明

 花びらやいまはの息のあるごとし
長谷川 櫂
 人の世の余白残してさくら散る
金井瑛子
 空をゆく一かたまりの花吹雪
高野素十
 口あいて落花眺むる子は仏
大谷句佛
 みまかりて桜吹雪に加はるや
中尾寿美子
 一本のすでにはげしき花吹雪
片山由美子




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