西行の歌

その2

山ふかく
 心はかねて 送りてき
  身こそ浮世を
    いでやらねども


捨てて後は
 まぎれし方は おぼえぬを
  心のみをば
    世にあらせける

越えぬれば
 又もこの世に 帰りこぬ
  死出の山こそ
    悲しかりけれ


年月を
 いかでわが身に おくりけん
  昨日の人も
    今日は亡き世に

雲晴れて
 身にうれへなき 人の身ぞ
  さやかに月の
    かげは見るべき


月にいかで
 昔のことを 語らせて
  かげに添いつつ
    立ちも離れじ

ゆくえなく
 月に心の すみすみて
  果てはいかにか
    ならんとすらん


月見ばと
 契りおきてし ふるさとの
  ひともやこよい
    袖ぬらすらむ

深き山に
 すみける月を 見ざりせば
  思い出もなき
    わが身ならまし


かかる世に
 かげも変わらず すむ月を
  見るわが身さえ
    恨めしきかな

愛ほしや
 さらに心の 幼なびて
  魂切れらるる
    恋もするかな


知らざりき
 雲居のよそに 見し月の
  かげを袂に
    宿すべしとは

弓張の
 月にはずれて 見し影の
  優しかりしは
    いつか忘れん


面影の
 忘らるまじき 別れかな
  名残を人の
    月にとどめて

数ならぬ
 心の咎に なし果てじ
  知らせてこそは
    身をも恨みめ


今日ぞ知る
 思い出よと ちぎりしは
  忘れんとての
    情けなりけり

かかる身に
 生したてけん たらちねの
  親さえつらき
    恋もするかな


この春は
 君に別れの 惜しきかな
  花のゆくえを
    思い忘れて

月の宮
 上の空なる 形見にて
  思いも出でば
    心通はん


見る人に
 花も昔を 思ひいでて
  恋しかるべし
    雨にしをるる




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