西行の歌

その3

月待つと
 いひなされつる よひの間の
  心の色を
    袖に見えぬる


もの思う
 心のたけぞ 知られぬる
  夜な夜な月を
    ながめあかして

涙ゆえ
 月はくもれる 月なれば
  ながれぬ折ぞ
    晴れ間なりける


もの思いて
 ながむる頃の 月の色に
  いかばかりなる
    あわれ染むらん

つれもなき
 人に見せばや 桜花
  風にしたがう
    心よわさを


花をみる
 心はよそに 隔たりて
  身につきたるは
    君がおもかげ

夢をなど
 夜ごろたのまで 過ぎ来けん
  さらで逢うべき
    君ならなくに


なにゆえか
 今日までものを 思はまし
  命にかえて
    逢ふ世なりせば

さはと言ひて
 衣かへして うち臥せど
  目の合はばやは
    夢も見るべき


あふとみる
 ことを限れる 夢路にて
  さむる別れるの
    なからましかば

なかなかに
 夢にうれしき あふことは
  現にものを
    思うなりけり


夢とのみ
 思いなさるる うつつこそ
  あひ見しことの
    かひなかりけれ

今朝よりぞ
 人の心は つらからで
  明けはなれゆく
    空を恨むる


ことづけて
 今朝の別れを やすらはん
  時雨をさえや
    袖にかくべき

つま恋ひて
 人目つつまぬ 鹿の音も
  羨む袖の
    みさをなるかは


朽ちてただ
 しをればよしや わが袖も
  萩の下枝の
    露によそえて




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