西行の歌

その4

いかでわれ
 この世のほかの 思い出に
  風をいとはで
    花をながめん


年を経て
 待つも惜しむも 山桜
  心を春は
    尽くすなりけり

あだに散る
 さこそ梢の 花ならめ
  少しは残せ
    春の山風


梢うつ
 雨にしおれて 散る花の
  惜しき心を
    何にたとへん

思い出でに
 何をか せまし この春の
  花待ちつけぬ
    わが身なりせば


わきて見ん
 老木は花も あはれなり
  今いくたびか
    春にあふべき

年を経て
 同じこずえに 匂えども
  花こそ人に
    あかれざりけれ


ならひありて
 風さそふとも 山桜
  尋ぬるわれを
    待ちつけて散れ

風さそふ
 花のゆくえは 知らねども
  惜しむ心は
    身にとまりけり


吉野山
 ふもとの滝に 流す花や
  峰につもりし
    雪のした水

惜しまれぬ
 身だにも世には あるものを
  あなあやにくの
    花の心や


憂き世には
 留め置かじと 春風の
  散らすは花を
    惜しむなりけり

惜しめども
 思いげもなく あだに散る
  花は心ぞ
    かしこかりける


梢ふく
 風の心は いかがせん
  したがふ花の
    恨めしきかな

花ざかり
 梢をさそふ 風なくて
  のどかに散らす
    春にあはばや


春ふかみ
 枝もゆるがで 散る花は
  風のとがには
    あらぬなるべし




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