西行の歌

その5

ほととぎす
 しのぶ卯月も 過ぎにしを
  なお声惜しむ
    五月雨の空


五月雨の
 晴れ間も見えぬ 雲路より
  山ほととぎす
    鳴きて過ぐなり

柴の庵と
 聞くはくやしき 名なれども
  世に好もしき
    住居なりけり


山里に
 心は深く 入りながら
  柴のけぶりの
    立ちかえりにし


「西行絵巻より」
流れ行く
 水に玉なす うたかたの
  あはれあだなる
    この世なりけり


消えぬめる
 もとの雫を 思ふにも
  誰かは末の
    露の身ならぬ

あはれ知る
 涙の露ぞ こぼれける
  草の庵を
    むすぶ契りは


今宵こそ
 あはれみ厚き 心地して
  嵐の音を
    よそに聞きつれ

晴れやらぬ
 去年の時雨の うへにまた
  かきくらさるる
    山めぐりかな


色深き
 梢を見ても 時雨れつつ
  ふりにしことを
    かけぬ日ぞなき

露の玉は
 消ゆればまたも 置くものを
  頼みもなきは
    わが身なりけり


月を見て
 いづれの年の 秋までか
  この世にわれが
    契りあるらん

西へ行く
 しるべとたのむ 月影の
  そらだのめこそ
    かひなかりけり


山の端に
 隠るる月を ながむれば
  われと心の
    西に入るかな

山深み
 入りて見と見る ものはみな
  あはれもよほす
    けしきなるかな


深き山は
 苔むす岩を たたみ上げて
  ふりにし方を
    納めたるかな




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