西行の歌

その6

折しもあれ
 うれしく雪の 埋むかな
  かき籠もりなんと
    思う山路を


なかなかに
 谷の細道 埋め雪
  ありとて人の
    通ふべきかは

松山の
 波に流れて 来し舟の
  やがて空しく
    なりにけるかな


松山の
 波の景色は 変らじを
  かたなく君は
    なりましにけり


曇りなき
 山にて海の 月見れば
  島ぞこほりの
    絶え間なりける


よしや君
 昔の玉の ゆかとても
  かからん後は
    何にかはせん

今よりは
 いとはじ命 あればこそ
  かかるすまひの
    あはれをも知れ


久に経て
 わが後の世を とへよ松
  跡しのぶべき
    人もなき身ぞ


「西行物語絵巻より」
「崇徳上皇の御歌」

浜ちどり
 跡は都に かよへども
  身は松山に
    音をのみぞなく


ここもまた
 あらぬ雲井と なりにけり
  空ゆく月の
    影にまかせて

岩伝い
 折らでつつじを 手にぞ取る
  険しき山の
    とりどころには


つつじ咲く
 山の岩かげ 夕映えて
  をぐらはよその
    名のみなりけり

おのづから
 月宿るべき ひまもなく
  池に蓮の
    花咲きにけり


夕立の
 晴るれば月ぞ 宿りける
  玉ゆり据うる
    蓮の浮葉に

舟すえし
  みなとの蘆間 棹立てて
  心ゆくらん
    五月雨の頃


五月雨の
 小止む晴れ間の なからめや
  水の嵩ほせ
    真菰刈る舟

かき分けて
 折れば露こそ こぼれけれ
  浅茅にまじる
    なでしこの花


露おもみ
 園のなでしこ いかならん
  あらく見えつる
    夕立の空

旅人の
 分くる夏野の 草しげみ
  葉末に菅の
    小笠はずれて


雲雀あがる
 大野の茅原 夏来れば
  涼む木陰を
    たづねてぞ行く




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