西行の歌

その7

西にのみ
 心ぞかかる あやめ草
  このよばかりの
    宿とおもえば


みな人の
 心のうきは あやめ草
  西に思ひの
    ひかぬなりけり

折らぬより
 袖ぞ濡れぬる おみなへし
  露むすぼれて
    立てるけしきに


をみなえし
 池のさなみに 枝ひぢて
  もの思う袖の
    濡るる顔なる


末葉吹く
 風は野も狭に わたるとも
  荒くは分けじ
    萩の下露


今日ぞ知る
 その江に洗う 唐錦
  萩咲く野辺に
    有りけるものを

花すすき
 心あてにぞ 分けてゆく
  ほの見し道の
    跡しなければ


穂に出づる
 み山がすその むらすすき
  まがきに籠めて
    かこふ秋霧


幾秋に
 われあひぬらん ながつきの
  ここのかにつむ
    八重の白菊


ませなくば
 何をしるしに 思はまし
  月にまがよふ
    白菊の花

はれやらぬ
 み山の霧の たえだえに
  ほのかに鹿の
    声きこゆなり


鹿の音を
 垣根にこめて 聞くのみか
  月もすみけり
    秋の山里

惜しむ夜の
 月にならひて 有明の
  入らぬをまねく
    花すすきかな


花すすき
 月の光に まがはまし
  深きますほの
    色に染めずば

うれしとや
  待つ人ごとに 思ふらん
  山の端出づる
    秋の夜の月


いかばかり
 うれしからまし 秋の夜の
  月すむ空に
    雲なかりせば

(弘川寺の西行の墓)




その5へ メニューへ