山頭火(さんとうか)



捨てきれない荷物のおもさまえうしろ

早朝にはや旅支度を整えた。乞食の行に出る
のだろう。つらい行にも朝の出立の時は、この
ように希望的な感覚が身を包んでいた。
ほんとうに良い一日であったら良いのにと思う





月の水をくみあげて飲み足って

水渡る、といった句は他にもある。山頭火にとって
此岸から彼の岸に渡る事は、乞食行のなかで一つ
の象徴的なことだったかも知れない。
なのに自分の周りを雲の影が纏い付く。行の進みを
遮るように、あきらかに天は味方ではない。




ここにふきのとうがふたつ

肌に心地よい風が通りぬける。上り坂をゆく山頭火
次の山を見据え、またその先の山をながめ、
深く深く山に入る。深い山は行の場
この句からは、ほととぎすの声を意識しているから
行の中にいるといった悲壮感はなく、爽快感だけが
伝わる。





ふるさとは遠くして木の芽

法衣といっても乞食坊主のボロボロのもの、それも
出家僧ではない俗僧だからどんな形状をしたもの
だったか。しかし汗にまみれ垢じみたものは洗わねば
ならない。人気のない山際の流れ、素っ裸になって、
一時、自然児の気持ちになった。
乞食行のささやかで、ほほえましい風景。





どこかに月あかりの木の芽匂うなり

峠みちで聞くほととぎすとは違って、こちらは闇のなか
冴えた聴覚に、遠く聞こえる番いの鳥の声
「生きている」自然、「死」を容認しながら死ねない自分
闇に聞こえる鳥の声が乞食行の身に突き刺さる。





庵はこのまま萌えだした草にまかそう

山頭火の希望、のぞみ、期待。
山頭火だけではない、こんな死に方が出来たら
どんなに良いか。
風を意識した時に、こんな感覚になるか?
こんな「期待」を風に托せるか?
かなり突飛な句だが、これが山頭火の真骨頂。




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