タゴールの詩によせて

「ギタンジャリ」から




あなたは私を無限にした

あなたは私を無限にした、それがあなたの歓びである。この脆い器をあなたは幾度となく空にして、また常に新たないのちでそれを溢らせる。
この小さい蘆の笛を、あなたは丘を超え谷を渡って持ち運んだ。そうして永遠に新しい旋律をそれから吹いた。
あなたの不滅の手に触れて、私の小さな胸は歓喜にはり裂け、言いがたい叫びをあげる。
あなたの無限の賜物は、ただこのささやかな私の掌を通して与えられる。幾歳すぎても、あなたはなおも注いでいる。そうしてそこにはなおも充たされるべき空所が残っている。





「ギタンジャリ」あなたは私を無限にした

「ギタンジャリ」あなたが歌えと命じる時に


あなたが歌えと命じる時に

あなたが歌えと命じる時に、わたしの胸は誇りにはり裂けそうだ。わたしはあなたの顔に見入る、すると涙がわたしの両眼につき上げる。
わたしのいのちの粗野なもの不調和なものが すべて甘美な調和に融けるそうしてわたしの讃仰は海を飛ぶ喜びの鳥のようにその翼をひろげる。
わたしは知っている、わたしの歌う時にあなたが喜ぶことを。
わたしは知っている、ただ歌手としてのみわたしは あなたの前にきたことを。
わたしの歌の遠くひろがった翼のはしで、わたしは触れ得ようとは思いもかけなかったあなたの足に触れる。
歌うことの歓びに酔いしれてわれを忘れ、わたしは主なるあなたを友と呼ぶ。



どのようにあなたが歌われるのか

どのようにあなたが歌われるのか、私は知りません、師よ。私はいつもただ無言の驚嘆で聞いております
あなたの言葉の光は世界を照らしだします。あなたの言葉の生命の息吹は空から空へと流れます。あなたの言葉の聖なる流れはすべての固い障害をつき破って突進します。
私の心はあなたの歌に加わろうと願いますが、空しく声を探してもがくばかりです。私は声を出したいのですが、言葉は歌とならず、ただ困惑して叫ぶだけです。ああ、あなたは私の心をあなたの言葉のかぎりない網目で捕らえました
師よ。





「ギタンジャリ」どのようにあなたが歌われるのか


「ギタンジャリ」王子の衣装で覆われて




王子の衣装で覆われて

王子の衣装で覆われて、頸に宝石の鎖をつけた子供は、遊びの楽しみをすべてなくしてしてしまう。彼の着物が一歩ごとに彼の邪魔をするのだ
すり切れはしまいか、塵で汚しはしまいかと恐れて、子供は世界から身を遠ざけ 身動きすることさえしない
母親よ、あなたの美しい装いの束縛が、何の役に立つのです もしそれが地上の健康な塵から子供を遠ざけ,常凡な人生の大きな祭りに加わる権利を彼から奪おうとしたら。

私はこの世界の祝祭に

私はこの世界の祝祭に招待されました。かくて私の生命は祝福されたのです。
私の眼は見、私の耳は聞きました。
この祝祭で私の琴をひくのが私の役目でした。そこで私は全力をつくしてひきました。
いま、たずねます いよいよ私が入っていって、あなたのお顔を見、私の無言の挨拶をあなたにささげる時が、とうとう来たのでしょうか?



「ギタンジャリ」私はこの世界の祝祭に



「ギタンジャリ」夜も昼も私の血管を流れる




夜も昼も私の血管を流れる

夜も昼も私の血管を流れる同じ生命の流れが、この世界を流れて、リズミカルな韻律で舞踏している
それは地上の塵をぬけて歓声をあげながら数知れぬ草の葉に迸り、葉と花のざわめく波となって砕ける、あの同じ生命
生と死、引き潮と満ち潮の大海の揺籃に揺られているのと同じ生命である
私は私の四股がこの生命の世界にふれることで輝かしくされるのを感じる。
そうして私の誇りは数々の時代の生命の脈拍が、この瞬間に私の血の中に舞踏していることである。

私はその日が来るのを知っている

私はその日が来るのを知っている そのときはこの地上を見る私の視力は失われ、生命は無言で暇乞いをして、最後のカーテンを私の眼の上にひくだろう
それでも星たちは夜眺めているだろうし、朝は前と変わらずに明けて、時間は海の波のようにもりあがって喜びと苦しみを投げつけるだろう この最後の時を思うとき、時間の堤は破れて、私はあなたの世界とその投げやりにされた宝を,死の光の中に見る。最低の席というものもなく、一番卑しい生命というものもない。
私が空しく求めてきたもの、私が手に入れたもの そういうものはどうでもいい。 ただ私に本当に所有せしめよ、私がこれまでないがしろにし、見すごしてきたものを。





「ギタンジャリ」私はその日が来るのを知っている

「ギタンジャリ」この小さな花を




この小さな花を

この小さな花を摘みて取れ、ためらいなく 私はそれがうなだれて地に落ちはせぬかと恐れる。
かれは汝の花環にふさわしいかもしれぬ。されど汝の手のいたき接触もてかれを摘みて栄光をあたえよ。気づかぬまに日が落ちて、ささげの時が過ぎはせぬかと私は恐れる。
たとえその色深からず、その香かすかなりとも、その花を摘みて汝への奉仕に用いよ、時過ぎぬ間に。

あなたのために歌うべく

あなたのために歌うべく私はここにいます。この御身の会堂の一隅に私の席があるのです。
あなたの世界に私のすべき仕事はありません。私の無益ないのちはただあてどない調べとなって迸るばかりです。
あなたへの無言の礼拝のために深夜の暗い寺院に時鐘が打つ時、主よ、あなたの前に立って歌うことを私に命じて下さい。
朝の微風の中に黄金の竪琴がかなでられる時、私に出席を命ずる光栄を与えて下さい。



「ギタンジャリ」あなたのために歌うべく



「ギタンジャリ」死が汝の扉を叩くときに


死が汝の扉を叩くとき

死が汝の扉を叩くとき、汝はかれに何をささげるか? おお、わたしは客人の前にわたしの生命を湛えた器を置こう 決して空手でかれを帰しはすまい。
わたしの一切の秋の日 夏の夜の美酒のすべてを、わたしのあわただしかりし生の収穫と落穂のすべてを、わたしはかれの前に置こう、わたしの日が終って死がわたしの扉を叩くときに。





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