
諸国を巡っている僧がいた。「この度は立山の霊場へまいり、その後まだ見ぬみちのくの外の浜へ廻ろうと思う。」 「さてもこの立山にきてみれば、目のあたりすさまじき地獄のありさま、死後におもむく苦悩の世界もさながらに」 亡者が現れる 「誠に申し訳ございませんが、みちのくへお下りになられるようですが、この言づてなんとかお聞きくださいませぬか。私は昨年の秋に亡くなった 外の浜の猟師でございます。残してきた妻や子にお逢い頂き、この蓑と笠をお渡しいただき、どうか回向を手向けてほしいと伝えていただきとうございます。どうぞお許しいただいてお願いできませぬか」 「それを届けることは良いとしても、特別証拠もないのにご妻子がお受け取りになるかどうか」 「それはそうでございます。これが確かなしるしになるでしょう。」 といってこの世の最後に着ていたそして今も着ている麻の粗末な仕事着の袖をひきち切り、涙と共に僧に渡した僧は山を下っていった。亡者姿の猟師は泣く泣く見送った。 |
ここはみちのく陸奥の外の浜、南の鬼界が島とおなじく北の流刑の地。かって平安の時代、貴族の烏頭安方(うとうやすかた)という人物がたどり着いたと言い伝えたり。 ここに生息する千鳥の類,ウミスズメをなぜか善知鳥(うとう)という。 鳩ほどの大きさ、背は黒く腹はしろい、口ばしは緋色鼻のところに白い突起ありという。 この鳥の親を「うとう」、雛は「やすかた」という。親は砂まじりの石原に卵を産み落とし立ち去る。 親鳥は「うとう・うとう」と子を呼び子は「やすかた・やすかた」と呼びかえす。 親子のなさけ殊に厚き鳥と土地の人々はいうなり。 かの猟師は、うとうの鳴き声をよく真似し渚に出て「うとう・うとう」と鳴き声を真似れば子があらはれ「やすかた・やすかた」と呼べば親が現れる。この親子を捕りて生業とするなり。まこと罪咎の深き所業なり。 |
「これはこの在所のひとか。さる年になくなりし猟師の屋はいずれか」「はい、あそこに見えまする竹矢来の屋にございます」 猟師の妻 「命あるものは必ず終わるこの世のならいと思いつつも、はかない契りを交わせし夫との別れ、忘れ難い思いと、忘れ形見のこの子をみればなおなお深い悲しみに」 僧「事の仔細を述べて妻に蓑笠と証拠の麻衣の袖を渡す」 妻「これは夢か、意外なこともあるものよ。あの世の夫の様子も聞くことも出来ずただこの品のみが」 と涙にくれる「せめてこの形見の品々に手向けの回向を。南無幽霊、生死の迷いを離れ速やかに成仏成さしめ給え」 |
猟師の霊が現れる「消え入りそうなあの姿、親子手に手をとりてただ泣くばかりのありさま。今は善知鳥の音に泣きて、安方の鳥のやすらぎもなく。 なぜ殺したのか、あまりにも多くを。 わが子をいとおしいと思うこと、鳥に獣にも。」と子に近寄り「あら懐かしや」と言わんとすれば雲に隔てて悲しくも子は立ち消えて夢に似たり。 「どうせ渡世の業を営むならば,士農工商の家に生まれれば良いものを、ただ明け暮れても殺生を生業として報いをも忘れし悔しさよ。」 「品変わりたる殺生に,無惨にもこの鳥は平砂に子を産みて、親は隠せどうとうと呼ばれれば子はやすかたと答え捉え殺されたり」 |
親は空にて目もくれないに血の涙を降らし、怪鳥となりて罪びとを責めたてたり。血の雨に濡れじと笠や蓑を傾けしも間にあわずここあちらと逃げ惑えども血の雨は降り止まず。 くろがねの口ばしを鳴らし、羽を叩き、あかがねの爪を研ぎたてて、眼を掴まれ肉を裂かれ、叫ぶとすれど猛火の煙、逃げんとすれど立つこともならず、空に鷹、地に犬の狩場の生命さながら。 「助け給えや御僧、助けて賜え御僧」と言いつつ男の霊は消えていった。 |
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