能・夢現(ゆめうつつ)


その4 女郎花

都から一人の女がここ八幡の地に恋しい男を訊ねてやってきた。男はこの里に住む小野の頼風という。
いつか都の女と睦まじくなって通い続けていた。ある日次に来る日を約束して帰っていった。しかしその日が来ても、待つ日を重ねても男は来なかった。



女は頼風の屋敷を探しあてた。
が頼風は留守だった。
女の落胆はこの上なくみじめにも哀れなものだった。そのうえにもっとも憐れなことは、男に捨てられたと解釈したことだった。 狂った姿に変わった女の行く先は決まっていた。




この地に、身を投げる早い瀬を探すのはたやすい事だった。
恋に狂った女に投身を止める理性はなかった。
川岸には憐れな女の「山吹のかさね」の衣だけが残された




帰宅した頼風は事の次第を聴いた。
あわてた男は女の後を追いかけて周囲を探しまわったが姿をみつけることは出来ない。
男の頭をある事がよぎった。
男は河原に走った。
予感は当たった。女が脱いだ「市女笠と山吹のかさね」の鮮やかな黄色の衣が憐れな色として残されていた。
男は水面にくまなく目を走らせた。女の骸は水底に漂っていた。男はただちに引き上げ、ねんごろに葬った。




女を葬った塚に花が咲いた。このことからこの花を「女郎花」と呼ぶ男が女郎花を眺めると花は男の反対の方向に靡いた。
男は
「死んでなお恨みの姿を示す女のこころ、私のために命を捨てた女、私もこの女のために、この命を捨てて共にここで生きよう。」
男の決断と実行は早かった、塚が二つ並んだ。




遠く離れた九州から一人の僧が都をめざしてやってきた。
「むこうの石清水八幡は、わが国の宇佐八幡とご一体ゆえにお参りしよう」
「これは見事な女郎花の原よ。」
と手折ろうとすると、土地の男が来て手折ることを止めて、この花の由来と恋の物語を話した。
しみじみとした話を聴いた僧は亡魂を弔う読経をおくった。
(補、この話は謡曲では画面ー6の僧と土地の男のやりとりで始まっていて僧の読経で二人の亡霊がでて事の始末を話す次第になっている。秋の風情をたたえる「おみなえし」にこんな話があったのだ。)





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