「さて、憑きたる人の名を名乗り下さい。跡はねんごろにお弔いしましょう。」
「今は隠す事もございません。判官、義経に仕えていた者です。」
「義経に最期までお供したのは、家来多きなかでも、増尾十郎兼房でしょうか。」
「兼房は義経殿の死骸のある御殿に火をかけ、自ら炎に飛び込み 自害した忠のものですが、それではありません。私は女でございます。義経殿が 都を落ち行かれる時、ここ吉野にて捨てられました。」
「さては、静御前であられますか、静御前ならば、舞の名手。ひとさし舞ってお見せ下さい。跡はねんごろに、お弔い致しましょう」
「私の舞衣を、ここ勝手明神に納めさせて頂きました。」
「納められた舞衣の色は。何色ですか。」
「袴は、絹の精好、素絹(すずし)。それに水干、模様は世の秋草の花尽くし」
神職は蔵を開いてみれば、まさに疑うところなし。 |