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一行は庵室に着かれた。庭の夏草は茂りあい、岩の隙間より落ちる水の音、屋根破れて霧がかかり、もの侘びしい景色の中に香を焚いた香りが漂ってくる。 出迎えたのは、女院(建礼門院)に仕える阿波の内侍だった。 「女院は何処にお渡りでしょうか」 「花摘みにお出でになられています。お伴には大納言の局。今少しお待ち下さい。やがてお帰りになりましょう。」 |
庵室のあたりに人声が近づいてきた。女院のお心は、昔、悉達太子は都を出て険しい道を進み、菜摘み、水汲み、薪とりなどの難行をして、遂に悟りを得る事が出来た話に因み、山深く花や山菜などを採り、仏前にお供えされて居られた。「法皇様の御幸でございます。」 |
法皇「先帝のご最期の有様、お聞かせくだされ」女院「恥ずかしながら、語ってお聞かせ申し上げましょう。そのときの有様、申すにつけても恨めしや 、長門の国、早鞆で筑紫の国へひとまず 落ちゆくべきと、一門申し合わせしておりましたが、緒方の三郎の心変わりによりそれもならず、折りしも上り潮になり、船隊の陣形はくずれ、そこへ源氏の船隊がなだれ込み、能登の守教経は、安芸の太郎兄弟を左右の腕にかかえ、最期の供せよとて海中に飛び込む。新中納言知盛は、船の碇を引き上げ、兜の上にかかげそのまま、海中に入りける。修羅道の戦い、阿鼻叫喚の畜生道のおぞましい有様で御座いました。」 |
女院の言葉はつづく。「その時、二位の尼、安徳天皇の御手をとり、船べりにのぞまれた、「いずこへ行くぞ」この国と申すに、逆臣多く、かく浅ましき処なり、極楽世界と申して、めでたき所がこの下に候なれば、行幸させ奉らん」 そして東に向かい天照大神にお暇申されて、西に向かいては、念仏を唱え千尋の底へ入り給う自らも続いて沈みしを、源氏の武士に取り上げられかひなき命を長らえ、恥をさらすことになりました。 |
女院の目には涙が溢れ、袖は濡れていた。いつまでも、お名残は尽きぬ。 法皇は還御を勧められ、漸くお発ちになられた。女院は柴の戸に立ち、暫しお見送りになって。やがて庵室にお入りになって、先帝のお姿を映した御影の前にしずかにお座りになった。 女院のお姿には、諸行無常の修羅場からは、程遠い静かなものだった。 |
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